僕は街の郵便屋。
人から人へ手紙を届けるのが僕の仕事。
雨の日も、雪の日も、僕は手紙を届け続ける。
みんなの想いを届けてる。

風が海の匂いを運んでくる季節。
透き通っていて、しょっぱい。
ドキドキ胸が高鳴り、そしてほんの少し切ない季節。

二丁目の突き当たり、丘のてっぺんにある白い壁の家。
青い海と白い家、綺麗な髪の女の人。
窓辺に座って、いつも絵を描いている。
白いキャンパスに青い絵の具を落とすと、みるみるうちに海が生まれる。
「風の匂いで色が判るのよ」
彼女は静かに微笑む。
開かれた瞳はもう色を映さないけど、色を感じるのだと、そう言う。
僕も微笑む。
何だか素敵だと思う。

この家に住んでいるのは女の人がひとりと、男の人がひとり。
僕は毎月最後の日に「手紙」を届ける。
僕が来ると彼女は笑って、彼も(彼女には見えないのだけれど)少し切なそうに笑う。     
彼は「手紙」を読み上げる。
遠い異国の町並みや風景、送り主の近状、『元気だよ』

そして最後に 『愛してる』 と。

いつもいつもその繰り返し。
彼は泣きそうな笑顔で、最後の言葉を告げる。
僕も泣きそうになる。

最初の手紙を届けたのはいつだっただろう。
遠い異国の地で、恋人は帰らぬ人になってしまったのだ、と。
無機質な感熱紙がそう告げて、
彼はその手紙を、そっと引き出しの奥にしまった。

生死の縁をさまよい、色を失った彼女。
「笑顔まで失って欲しくないんです」
彼の願い

彼女の笑顔

優しい嘘と、悲しい微笑み

彼はきっと、これからも手紙を読み続けるだろう。
『愛してる』と、届かない声で囁きながら。
僕もきっと、手紙を届け続ける。

町はやがて、鮮やかに色づいてゆく。
彼女のキャンパスには、変わらない青。
限りなく蒼に近い青。

僕は街の郵便屋。
人から人へ手紙を届けるのが僕の仕事。
雨の日も、雪の日も、僕は手紙を届け続ける。
みんなの想いを届けてる。

end.

inserted by FC2 system